さよならおーちゃん

おーちゃんの漫画劇場は100話完結予定でしたが
こんな形で終わってしまいました。

おーちゃんは4月7日(金)引越しの日に逃げてしまって、
カラスにつかまって林の中に連れて行かれてしまいました。

12時ごろ家の中の荷物が全部運び出されて、残ったのはピアノだけでした。
ピアノは午後から業者が引き取りにくるので、私は待っていなければなりませんでした。

何もなくなった部屋の中はとても寒かったので
おーちゃんとぴよちゃんはオヤジとおねえちゃんと一緒に車に乗って
一足早く、引越し先に着くようにしたのが間違いでした。

駐車場に止めて、荷物がたくさんあったので
オヤジがカートを借りてきて、それに荷物やら鳥カゴをたくさんのせて
ひいて行ったそうです。
おーちゃんのカゴは一番上に乗せてあって、スロープでそのカゴが落ちて
おーちゃんは驚いて出てきてしまったそうです。

カゴの出入り口は下向きだったそうだし、カバーをしていたのに・・・
おーちゃんは少しの隙間でもカゴ抜けするのが得意だったのです。

おーちゃんは一気に飛んで上っていって、一瞬見失ったそうですが、
もの凄い声で呼びなきするので、上を見たら9階あたりの手すりに止まっていたそうです。


私は同じ階段の友達の家でお昼を食べ終わったところだった。
そこにおねえちゃんからケイタイにかかってきた。
「おーちゃんが逃げた。上の方にいるけどパニクッていて
呼んでも聞こえないみたいだ。」とのことだった。
でも、おねえちゃんの声が明るかったのでその声に気が付けば
戻ってくると思っていた。
おねえちゃんも「大丈夫だと思う。」と言っていた。

15分くらいして、でもやっぱり気になって、タクシーを呼んで
引越し先まですぐに行こうと玄関にいって靴を履きかけた。

ケイタイが鳴った。
おねえちゃんの泣き声だった。
「おーちゃんがカラスにくわえられて、連れていかれてしまった。
カゴを持って探しているけど、見つからない」

私は玄関で気が抜けてしまったようで、しゃがんだまま立てなくなってしまっていた。

友達に事情を話すと「それはかわいそうだ。
見ていたおねえちゃんがかわいそうだよ」

後のことはあんまり覚えていないけど、
ピアノを引き渡して、掃除をしてオヤジに迎えにきてもらって
新しい住まいへとうつった。
オヤジは「あんた、大泣きしてると思ったよ。」と車の中で言った。

私は詳しく知りたくなって、聞いてみた。

オヤジは
「おーちゃんが上の方で鳴いていたら、すぐにカラスが飛んできて
おーちゃんをくわえて林の方に飛んでった。
あっという間だった。」

私はどこをくわえていったの?ときいてみた。

「羽をくわえていた。あれはもうダメだ。」と言った。

新しい家に着くともう6時半をまわっていた。
おねえちゃんは家に帰ったばかりだった。
まだ泣いていた。ワンワン泣いていた。

私も泣きたかったけど、涙はでなかった。

おねえちゃんは「わたしがおーちゃんのカゴを持って歩けばよかった。
自分の荷物があったので、オヤジに任せたのが間違いだった。
あたしのせいだ。」とますます泣いていた。

私は私で何も信用のないオヤジに預けないで
掃除が終わったら、夜でもいいから自分でオカメ達を運べばよかったと思った。

おねえちゃんはその晩、具合が悪そうになってお風呂にも入らず
寝ようとしていた。
足を見ると擦り傷がいっぱいあった。
足の親指の爪は少しはがれて血が滲んでいた。
北側にある森の周りを歩き回ったようだった。

次の日はおばあちゃんが手伝いにきてくれた。
おねえちゃんは熱と頭痛でずっと寝ていた。

夜遅くおきてきて
「昨日からほとんど食べてなかった。
明日おーちゃんを探すのにたくさん食べないと歩けない。」と言って
物凄い勢いでパンを食べていた。

日曜日、自転車でおねえちゃんと探しに行った。
タブンぼろぼろになっているであろうおーちゃんを探した。
でも見つからなかった。

おねえちゃんは春休み中は毎日おーちゃんに朝起こしてもらっていたので
「おーちゃんがデコつけて起こしにくる気がするけど、おーちゃんの臭いがしない。」
と、また泣いていた。

私は山になったダンボールを片付けるのに精一杯だった。

火曜日に運転免許の住所変更届けをしに行った。
その時、「遺失物取り扱い所」でおーちゃんの迷子届けをだした。

おねえちゃんも一緒に行った。
その時「気が動転していて、よく覚えてないけど
カラスにくわえられたおーちゃんの大きな鳴き声がずっと聞こえてたんだ、
でも途中で急に聞こえなくなったので、おーちゃんはダメかもしれない。」と話した。

私は「遠くになったから、聞こえなくなったんじゃないの?」と言ってみた。

おねえちゃんは「私はおーちゃんの声は1キロ先でも聞こえるよ。」と言う。
そう、おねえちゃんは目は悪いけど、耳はとってもいいのだった。

絶望した2人だったけど、、
おーちゃんの兄弟がもしかしてホームセンターにいるかもしれないって話になって
警察からホームセンターまでそのまま車を飛ばした。

そこには生後1ヶ月半のノーマルのオスが一羽いた。
足環はなかった。おーちゃんと一緒だ。
何も考えず、買って帰っておーちゃんのカゴに入れた。

一番喜んだのはぴよちゃんだった。
その日は一日中、そのオカメに張り付いて観察していた。

おーちゃんがいなくなって、一日中呼び鳴きしていたけど、
それも収まって、ごはんもモリモリ食べるようになった。

13日木曜日におばあちゃんは帰った。

私はいきなり悲しくなって、涙が止まらなくなった。
一人の部屋で思いっきり「おーちゃん!」と呼んでみた。
おーちゃんの匂いをかぎたかったけど、
おーちゃんのものは何にも残っていなかった。

オヤジが言うカラスが飛んでいったという方向は
立ち入り禁止の薬品工場の敷地内の林の中だった。
私はおーちゃんの羽が欲しかった。

思い切って工場の電話を調べてかけてみた。
閉鎖予定の工場だったようで、気が済むように探してよいと嬉しいお返事をもらえた。

すぐに走っていった。
係りの人が待っていてくれて、2時間以上探させてもらった。
でも何も見つからなかった。
工場の敷地は8万坪もあるそうだ。

次の日もきていいと言ってもらえたので行って探した。
たくさん灰色の羽が落ちていた場所があった。
でもそれはおーちゃんの羽ではなかった

林の中の大きな木の上には、大きな巣が4〜5メートルおきにあった。
カラスの巣かもしれないと思った。
その下をよくみてまわったけど、やっぱり何もなかった。

林の中はリスや小鳥がたくさんいた。
カラスには襲われないのだろうか?

おねえちゃんは木曜日から学校が始まって
いつもの生活に戻った。すっかり立ち直っている。
私だけ戻れない気がする。

おねえちゃんに
「オヤジがあなたに、おーちゃんのカゴを支えていていてと言ったのに
手を離したからカゴが落ちてしまったと言っていたよ」と話した。

そしたら
「オヤジがそんな気遣いするはずないじゃん。
どんどん歩いて行ったよ」と言うではないか。。。

そうだよね〜、いつも人の言うこと聞かないで、さっさと行ってしまうのだ。

おねえちゃんに
「あなたのせいにされて、悔しくないの?」と聞いてみた。
そしたら
「自分では嘘ではなくて、本当に言ったと思っているんだよ。
そういう人たくさんいるんだよ」だって・・・・

ああ、最悪。


おーちゃんは引越しの日、久しぶりのドライブでとてもご機嫌だったそうだ。
車の中でおねえちゃんに向かってずっとおしゃべりしていたらしい。

こんなことになるんだったら、助手席に乗せて、もっとドライブしてあげたらよかった。。
最近は助手席はカゴの大きさの関係でぴよちゃんなのだ。

それから、、、
おーちゃんの好きな体に悪そうな食べ物をもっとあげればよかった。。。
おーちゃんはまだ4歳になったばかりの健康なオトコの子だったのに。

カラスの大きなくちばしにくわえられて、どんなに痛かったことか。
本当に悔しい。

衝動買いしたオカメはおねえちゃんが「おーちゃん2nd」と呼んでいる。
私はカラッポのおーちゃんのカゴを見ると力が抜けて何も出来ないでいたけれど、
今は灰色の物体2ndが見えるので普通にできるようになった。


おーちゃんは自分の分をわきまえた、賢いオカメだった。
私達が食事中にカゴから出しても絶対にお皿に乗らずに肩にとまって
自分も欲しければ「食べる?食べる?」と聞いてきた。

お茶の時間は一緒になってテーブルに乗って
自分の分の餌を食べていた。
人と同じ行動をするのが大好きだったのだと思う。

最近は私と一緒におねえちゃんを起こすのが日課だった。
肩にとまっておねえちゃんの部屋まで行くのだけど、
それからおーちゃんだけベットに降りて、顔に向かって歩いていって
知ってる限りの言葉を話すのだ。
おしゃべりしているうちに、興奮するみたいで
おでこをおねえちゃんの顔にこすり付けていた。

「デコが鼻の下にくると、くさくて起きちゃうよ」っていつも言われていたね。

私はおーちゃんとお昼寝をするのが好きだった。
鼻先におーちゃんの柔らかい胸の羽があたるのが心地よかったから。



4月18日

今日は薬品工場の広場やグラウンドを捜索。
そして最後に大きく敷地内を一周させてもらった。

おーちゃんの捜索は今日で最後にした。
ずっと一緒に探すのを付き合ってくれた工場の鈴木さんにお礼をしてきた。

工場は林の中にあって新芽や若葉がいっぱい、、、
もしおーちゃんが無事であれば生きていけるような気もして・・

お花見広場には2羽モンキ蝶が飛んでいた。
ゆらゆらと飛んで林の中に入っていったので
もしかして、おーちゃんの羽が見つかるような気がして
急いでその蝶を追いかけた。

グラウンドの隅にはハコベやぺんぺん草が生えていた。
生きていたらおーちゃんが食べにきたかもしれない。。

最後のところで軽トラックに乗ったおじさんが
「6日か7日にテニスコートのフェンスにとまっている、キジバトより一回り小さい尾っぽの長い鳥をみたよ」と教えてくれた。普段見かけない鳥だから覚えていたそうです。
でも、じっとしていたというのでおーちゃんではないと思った。
鈴木さんは「おーちゃんかもしれませんね。きっとどこかで飼われていますよ」と慰めてくれた。
そして工場を出るとき、「元気出してくださいよー!」と言って手を振ってずっと見送ってくれた。

家に帰ると、おーちゃんがまだいるような気がしていたけど、
今日はそのときに、本当におーちゃんとお別れなんだなって思って自転車をこぎながら涙があふれてきた。
ずっと気になっていた林を探し回って、気が済んだのかもしれない。

工場で出会った人達はみんな優しかった。



5月1日

探し物をしていたら、引き出しの奥からおーちゃんの羽が出てきた。
ビニール袋に入ってたくさん!嬉しい!

欲しかった長い尾羽もあった。縞パンまでも・・・

おーちゃんのにおいがかげると思ったけど、何もにおいはしなかった。
臭くってずっと忘れないおーちゃんのにおいだったのに、もう忘れそう。

本当は林の中でどんな姿になっていてもおーちゃんを探してあげたかったけど、見つけてあげられなかった。

「いつまでも、メソメソしてんじゃないよ。これで我慢しとけよ。」っておーちゃんからのプレゼントなのかも。





5月16日

おーちゃんの写真をみても涙が出なくなったのでおーちゃんの写真を飾った。
緑色のガラスの花がついているフォトフレームの中のおーちゃん。
食卓の横でいつもみんなを見渡している。

脂粉の詰まった羽も一緒にいれた。
ライトが反射しておーちゃんの目が「キラ〜ン」って光って見えるときがある。

いつも私の左の肩に乗っていたおーちゃん。
パソコンに向かって一人で仕事をしていた私の相棒だった。

絶対にキーボードの上には乗らず、
甘えたくなると、私の頬を軽く突いて「撫ぜてくれよ」の合図をしていた。

おーちゃんのにおい、おーちゃんの重さ、おーちゃんの声、
何もかも絶対忘れないと思っていたけど、
もう、うっすらとしか覚えていない。

おーちゃんに申し訳なくて、時々羽を出してはにおいをかいでみる。
だけど、抜けた羽は何のにおいもしない。

後もう1日林の中を探したらおーちゃんを見つけられたかもしれない。
ボロボロになったおーちゃんでよかった。亡骸でよかった。
見つけてあげられなくって、、、ごめんね、おーちゃん。
本当にごめんね。




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